今年読んだ本
今年(2018年)は再読を除いて170冊くらい読んだようです。読んだ中から印象に残った10冊をまずご紹介。
- 『探偵小説の黄金時代』(マーティン・エドワーズ著、森英俊・白須清美訳、国書刊行会、2018年)今年最大の収穫。黄金時代の作家たちの人間模様が実に生き生きと描かれています。長年の疑問がいくつか解消されました。
- 『塗りつぶされた町』(サラ・ワイズ著、栗原泉訳、紀伊国屋書店、2018年)ロンドンのとあるスラム街の盛衰を時代状況を絡めて活写しています。ページをめくる手が止まらないとはこの本のこと。アーサー・モリスンがわりと大きく取り上げられていたのが個人的には驚きでした。
- 『姦通裁判』(秋山晋吾著、星海社、2018年)近世トランシルヴァニアの片田舎で起きた(どちらかといえばどってことない)不倫事件を題材にした社会史のお手本みたいな本です。内容も充実しているうえ、大変読みやすく一般書として素晴らしい企画だと思いました。
- 『ヴェネツィアの歴史』(中平希著、創元社、2018年)あるようで実は貴重なヴェネツィア共和国の通史です。ルネサンス以降の後半の歴史やかなり複雑な政治制度なども詳しく、目配りよくバランスの取れた良書です。
- 『記憶術全史』(桑木野幸司著、講談社、2018年)年末の大作。「こんな方法で覚えられるのか?」というかすかな疑問と記憶術によって広がる世界の圧倒的な面白さがないまぜになって一気に読んでしまいました。
- 『錬金術の秘密』(ローレンス・M・プリンチーペ著、ヒロ・ヒライ訳、勁草書房、2018年)現代ではちょっと怪しい雰囲気のある錬金術を歴史的に考察した研究書です。ややとっつきにくいところもありますが、術そのものよりむしろ思想的な背景が興味深かったです。
- 『スペイン美術史入門』(大高保二郎監修・著、NHK出版、2018年)今夏スペインに旅のお供に持っていき、実に楽しく旅行できました。絵画だけでなく建築も大きく取り上げられていて思い出深い一冊です。
- 『まぼろしの奇想建築』(フィリップ・ウィルキンソン著、関谷冬華訳、日経ナショナルジオグラフィック社、2018年)見て楽しい本。実現に至らなかった(かなり)奇妙な建築の数々に思わず笑みこぼれます。
- 『失われた宗教を生きる人々』(ジェラード・ラッセル著、臼井美子訳、亜紀書房、2016年)中東地域に残るマイノリティ宗教を信仰する人々を扱ったノンフィクション。記述に疑問がないではないのですが、著者の筆力と好奇心旺盛なバイタリティがそれを補っています。
- 『人形の家を出た女たち』(アンジェラ・ホールズワース著、石山鈴子・加地永都子訳、新宿書房、1992年)
人形の家を出た女たち
20世紀イギリスの女性の生きざまを描いた作品。もとはBBCのドキュメンタリーだったもので構成・文章とも大変読みやすく面白い作品です。
10冊中8冊が今年の刊行でした。他には『ライシテから読む現代フランス』(伊達聖伸著、岩波書店、2018年)『物語アラビアの歴史』(蔀勇造著、中央公論新社、2018年)、『アファーマティブ・アクションの帝国』(テリー・マーチン著、明石書店、2011年)あたりが次点でしょうか。今読んでいる途中の『オスマン帝国』(小笠原弘幸著、中央公論新社、2018年)もかなり良いです。番外は改訂新版の出た『新書アフリカ史』。
小説は数が少なかったのですが、『チェコSF短編小説集』(ヤロスラフ・J・オルシャ・jr編、平凡社、2018年)が出色でした。編者は駐フィリピン大使で出版までのエピソードも面白かったです。
おまけ
- 掘り出しもの
『ウィリアム・モリス伝』(フィリップ・ヘンダーソン著、川端康雄・志田均・ 永江敦訳、晶文社、1990年)
古本で見つけた掘り出し物です。
来年も素晴らしい出会いがあることを願いつつ年を越したいと思います。よいお年を。