『盗まれたフェルメール』(マイケル・イネス)

 

マイケル・イネス『盗まれたフェルメール』(福森典子訳、論創社、2018年)を読みました。久しぶりのイネスです。

警視監(副総監?)のアプルビイが妻ジュディスに誘われ、新進画家の個展へ。新進画家は数日前に自宅で不自然な死を遂げていました。いぶかしむアプルビイの目の前で画家の大作が姿を消します。画家の自宅を調べ始めたアプルビイのもとに、時を同じくしてホートン公爵からは『ハムレット復讐せよ』の舞台となったスカムナム・コートで盗難事件が発生したとの知らせを受けます。盗まれたのはフェルメールの作品。ひょんな偶然から2つの事件が交錯し始めます。

 

物語のテンポは速く正直なところもう少し書き込まれていても良い感じですが、類例はありますが(おそらく実話もあります)伏線もうまく回収されています。(よく言われる)ぶっ飛んだユーモアや文学的素養を求めるところも薄く読み易い一方、後半の展開が年甲斐もない冒険小説めいているのが微笑ましいです。アプルビイ警視監、けっこう偉いのに何やっているんでしょうか。

 

15年の時を経て再登場したホートン公爵は『ハムレット復讐せよ』のときより親しみやすさが増している感じです。経済的な問題に具体的には触れられていませんでしたが、栄華を極めたスカムナムで有料の見学ツアーを行っているくだりは、戦間期以降のイギリス貴族の立場の変化を映しているように思います。

 

一つ疑問なのはマーヴィン・ツイストの訳し方。明らかに男性のはずですがどうして女性の言葉づかいで訳されているのでしょう?